2012年04月08日

緊急警句・人工呼吸中の血圧異常

ちょっと最近の症例で、思うことがあり、緊急に告知します。


人工呼吸中にファイティングとか、自発呼吸が過剰になったりとか、があると、血圧が急に変わったりしますね。

そのときは、どうしましょうか。


血圧の変動、という事象にとらわれてしまうと、血圧のコントロールにかかりっきりになったりしませんか?
カテコラミンやvolume負荷で。


でも、そのような場合、まず第一は呼吸器の設定見直し。


なぜファイティングしているのか。

自発が多くて、呼吸器の「無理矢理換気」とあわなくなっていれば、


・自発を活かす方向で考える
 →設定呼吸回数を減らす、CPAP+PSVにする方向で。


・まだ自発での維持が無理
 →鎮静をしっかり方向で、ちゃんと呼吸器に乗せる。


どちらか、必ずアクションすべきです。
「経過を見る」のは、今後の展開に余裕があると見込まれるときに限ります。


まあ、「経過を見る」ことで診断に至る例もあるのですが…それはまた改めて説明しましょう。

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2011年01月25日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際10・人工呼吸管理の戦略(strategy)・PaO2とPaCO2の値によって、項目の設定をどのように決めていくか

人工呼吸器中の事故、合併症を避けるためには、

■できるだけ早期にFIO2を下げる(60%を下回るように)

■できるだけ最高気道内圧を低めに維持(30cmH2Oを下回るように)

必要があります。

その上で、PaO2、PaCO2を適正な値に保つよう、コントロールを考えます。
具体的には、以下のように考えて参ります。


PaO2の値が不適切な場合

FIO2を変化させると、PaO2が変化します。
また、PEEPを変化させても、(換気に参加する肺胞の数が増えるので)PaO2が変化します。

ただし、PEEPを変化させると、胸腔内の圧が変化し、全身の血圧が変わります。
PEEPを上げると血圧が下がります。
さらに、PEEPを変化させると、その分最高気道内圧が変わります。

最高気道内圧が、30cmH2Oを越えないよう低めに維持するためには
TVを減らす必要があります。

すると分時換気量が落ちるため、CO2が貯留気味になります。
しかし、多くの人工呼吸管理を必要とするT型呼吸不全では、
多少CO2が貯留しても、pHには影響が出ない程度であることが多いため、
pH異常にならない限りは高CO2を許容することが多いのです


この戦略を、permissive hypercapnia(許容できる高CO2)といい、
現在のICUにおける基本的な戦略になっています。 


PaCO2の値が不適切な場合

分時換気量(=1回換気量×呼吸回数)を変化させると、PaCO2が変化します。
一方、1回換気量を増やすと、最高気道内圧が上昇します。

また、あまり呼吸回数を増やすと、死腔換気が増えるため、折角の換気が無効になります。

これらの条件をクリアーしつつ、適正なPaCO2に近づけるよう、
分時換気量をコントロールしていきます。

これまで、原則中心にお話を進めて参りましたが、実際の臨床の場では、いろいろと細かいことが出てきます。それは応用編として、また改めてご紹介します。

この人工呼吸器コース、当初考えていたよりも長くなってしまったので、いったん別の話題も挿ませていただこうと思います。

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2011年01月24日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際9・設定の実際

ようやく実際の設定をしてみましょう、というところまでたどり着きましたね。
よくここまで辛抱していただきました。


例えば、救急の現場で、身長が160cmぐらい(体重不明、中肉)の人が、両肺真っ白、ARDSの様な状態で搬送されてきたとします。初期設定をしてみましょうか。

まずは、ものすごく浅薄呼吸で、自発呼吸がほとんど無効換気じゃないか、という場合。

*無効換気:鼻腔、口腔〜気管支の間にあらかじめあって肺胞に入らない(呼吸・ガス交換に関係しない)空気の量を死腔といい、150(〜300ml)程度あるため、浅薄呼吸だとRVのところを行ったり来たりで、ガス交換に寄与しない「無効換気」となります。


自発呼吸はここではご遠慮願いましょう。モードはCMVで、従圧式にします。
ARDSだと肺が硬くなる(線維化を起こす)ため、1回換気量(タイダルボリューム Tidal Volume:TV)は小さめ(6ml/kg理想体重程度)に、呼吸回数は気持ち多めにしてみましょう。

設定しながらでも、実際のTV、呼吸回数、最高気道内圧はダイレクトにモニターできますから、160cmの理想体重55kgぐらいとして、TV330、まあ350位を目標になるよう圧と吸気時間を決めます。吸気時間1秒、呼気時間2-3秒の間で、呼吸回数が増えすぎない、良さそうなところに設定します。

いったん設定を決めて、SpO2 が安定したら、20分ほど経ってから血ガスを取りましょう。
pHとPaCO2をチェックするためです。

ここで納得のいく数字が出ていたら、設定はひとまず完了です。
ここで想定外の数字が出ていた場合は…次回で。

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2011年01月23日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際8・人工呼吸中の事故、合併症

人工呼吸管理によって起こりうる合併症として、次の3項目は必ずおさえておきたいものです。

1. 血圧低下

通常の呼吸は胸郭を動かし、胸腔内を陰圧にすることで行うところ、人工呼吸は器械から陽圧の空気を送り込むことで呼吸を行っています。

従って、ほぼ常に胸腔内は陽圧になり、心臓が圧されて静脈還流が減ることで、心拍出量の低下、血圧の低下を来します。

PEEPをかけると、血圧はますます低下します。


2. 圧損傷(気胸、縦隔気腫、皮下気腫)

気道内の陽圧によって、肺組織自体が傷害されます。気道または肺胞がやぶれると気胸や縦隔気腫が生じるのです。ステロイドを大量に投与していて組織が脆弱になっている場合は特に注意が必要です。

予防のためには、最高気道内圧(プラトー圧)を35cmH2O以下に保つべきである、とされていますが、安全のためには30cmH2O以下ぐらいがよいようです。


3. 酸素中毒

高い吸入酸素濃度も肺障害の原因になるため、FIO2をなるべく60%以下に保つべきとされています。具体的には、FIO2>60%が24時間以上続くと肺障害の率が上がると言われています。

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2011年01月22日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際7・プレッシャーサポートって、なんやねん

SIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation同期式間欠的陽圧換気)モードで突然出てきた、プレッシャーサポート(pressure support:PS)とはなんでしょう。

日本語だと、圧補助。圧力を補助するものです。

患者さんが自発呼吸を行うときに、吸気努力(回路内が陰圧になる)を感知して、患者さんの吸気にあわせて器械が一定の圧を送り込み、吸気を助けるものです。

つまり、これは自発呼吸を含むモードの時に限って設定されるものです。

自発が弱いときには圧を高く、ウィーニングが進んでくると低くしていきますが、そもそも人工呼吸回路がつながって状態で呼吸すると、回路内の抵抗があるので、相当呼吸がしんどくなります。そのため、最低でも4-5cmH2Oはかけておきます。

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2011年01月21日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際6・器械による呼吸+自発呼吸(SIMV:synchronized intermittent mandatory ventilation同期式間欠的陽圧換気)の際に確認すべき設定

しつこく原則の確認です。

体内の酸素量を決める要素として、

肺胞の数=PEEP
FiO2

二酸化炭素を決める要素として、

分時換気量
=1回換気量×呼吸回数

つまり、
患者さんの(分時)換気量(MV)=
器械で設定した1回換気量×呼吸回数+自発呼吸の1回換気量×呼吸回数
 (こちらで設定できる)         (こちらで設定できない)

なので、設定するパラメーターとしては、

吸入気酸素濃度(FIO2)
PEEP圧
(ここまで、PaO2に関与)と、

1回換気量(TV)と呼吸回数(従量式)
 (または吸気流速と吸気時間I:呼気時間E)
最高圧レベル(PC)と吸気時間(従圧式)
プレッシャーサポート圧
(これらは分時換気量(MV)を決定し、PaCO2に関与)

となります。

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2011年01月20日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際5・器械による呼吸+自発呼吸

実際の救急臨床の場では、100%器械換気を続ける、ということはあまりありません。

ウィーニング(人工呼吸器からの離脱)も意識して、状態が落ち着けば、早めに自発呼吸を出していく、自発呼吸を生かした設定に切り替えていきます。

あるいは人工呼吸開始時から、ある程度自発呼吸を生かした設定にしておくことも多いです。

そのときのモードがSIMV(synchronized intermittent mandatory ventilation:同期式間欠的陽圧換気)です。CMVとの大きな違いは、自発呼吸を許容できるかどうかです。

CMVでは、自発があっても、無視されて呼吸するのに負担がかかるか、ファイティング(患者さんの呼吸と器械の呼吸が合わない状態)を起こすかになってしまいます。SIMVにすると、自発は自発で許容して、何だったらサポートまでしてもらえます。


このモードでは、

患者さんの(分時)換気量(MV)=
器械で設定した1回換気量×呼吸回数+自発呼吸の1回換気量×呼吸回数
 (こちらで設定できる)         (こちらで設定できない)
 
となります。

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2011年01月19日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際4・PEEPってなんやねん?

酸素を決める要素として、

肺胞の数=PEEP
FiO2

を設定するのでしたが、じゃあ、PEEPって何?ということになります。

きわめてシンプルに書くと、PEEPは呼吸に関与する肺胞の数を増やすものです。
人工呼吸を行っているとき、吸気では陽圧がかかり、肺胞たちをふくらませます。

PEEPスライド1.JPG



呼気でその陽圧を0にすると、(特に重力がかかる)背側などの肺(肺胞)がぺしゃんこになってしまうのです。

PEEPスライド2.JPG



そのため、呼気の最後でも少し圧力を残した状態にして、肺胞がぺしゃんこにならないようにする、この圧力のことをPEEPといいます。

PEEPスライド3.JPG



PEEPをかけると、吸気の時の肺胞の状態は変わらなくても、呼気時にぺしゃんこになる肺胞の数が減る。その分、呼吸に関与する肺胞が増える(減らない)ことになるので、PaO2は改善することになるのです。

PEEPは最低でも4〜5cmH2Oぐらいはかけておくもので、場合によっては20cmH2Oくらいまでは許容範囲、といわれています。


PEEPのリスク

PEEPをかけると、胸腔内の圧が上昇するので、心臓が少し圧されます。そのため、静脈還流が減り、全身の血圧が低下します。ただでさえ、陽圧換気で血圧が低下しているところ、さらに低下するのです。

PEEPを変化させると、その分最高気道内圧が変わります。PEEPをあまり高くすると、最高気道内圧が高くなるので、圧外傷(気胸、気縦隔、皮下気腫など)が生じる恐れがあります。

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2011年01月18日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際3・従量式と従圧式の違いがわからない!

器械のみによる呼吸モード(CMV:continuous mandatory ventilation持続強制換気)、設定の原則をおさらいしましょう。

酸素を決める要素として、

肺胞の数=PEEP
FiO2

を設定し、
二酸化炭素を決める要素として、

分時換気量
=1回換気量×呼吸回数

を設定します。


ま、PEEPとFiO2はいいですね。
どんな器械でも、設定のところにあるので、そこのダイヤルを回して設定します。


しか〜し!
器械のどこを見ても、1回換気量とか呼吸回数とか、書いてない!
どう設定したらいいの?と悲鳴が聞こえてきますね。

実は器械(のメーカー)によって、そして、従量式か従圧式かによって、換気量の設定は必ずしも1回換気量と呼吸回数ではなく、様々なパラメーターになっているのです。

これは本当に困るのですが、まずは落ち着いて、自施設の器械についている説明書をじっくり読んでおきましょう。私も自施設にある器械ぐらいしかわかりませんので、説明が多少偏ることをお許し下さい。



ここで、従量式と従圧式の違いを。

従量式と従圧式の違いは、まあ、吸気の時に、どういう風に空気を入れるかの違いです。

従量式は、決められた一定の量(1回換気量)の空気を、決められた回数(呼吸回数)入れる。これで、一定の換気量を保証するものです。

これは原則通りで、理解しやすいモードです。パラメーターの設定も、1回換気量と呼吸回数を決めるものが多いので、わかりやすいですね(昔のサーボは、分時換気量を設定していましたが)。

デメリットは、量を優先させるので、特にARDSなど、肺が硬くなる疾患や喘息の時など、思いがけず高い圧が気道内にかかってしまう可能性があること。気胸や縦隔気腫、といった、圧外傷を引き起こし、ややこしいことになります。

それで、最近では、従圧式の方が好まれる傾向にあります。


従圧式は、一定の圧を決められた時間入れる。ですので、換気量は保証されないわけですが、救急・ICUの領域で人工呼吸をする疾患の多くは、ARDSのようなT型呼吸不全が多いため、換気量をがっつり入れる必要はないケースが多いのですね。

それよりむしろ、圧外傷の回避、肺の保護という観点で、こちらが好ましいとされることが多いようです。

パラメーターの設定は、最高圧レベル(PC)と吸気時間を決めます。吸気時間I:呼気時間Eの比(I/E比)も必要です。これで、どの程度の圧でどれだけの時間空気を送り込むか、1分間に何回送り込むかが決まり、その結果分時換気量が決まるのです。

ですから、設定のところを見ただけでは1回換気量も、呼吸回数も、分時換気量もわかりません。肺の硬さなど、いろいろな要因の結果、換気量が決まってくるのです。でも、必ずモニター画面があって、1回換気量も、呼吸回数も、分時換気量や、自発呼吸の回数なんかもわかるようになっていることが多いです。


従量式で設定しても、従圧式でも、大事なことは、設定した後に実際の数値をモニターして確認することです。

従量式であれば、気道内圧が上がりすぎていないか。従圧式であれば、しかるべき分時換気量が保たれているか。血液ガスも取りましょう。

場合によっては、設定の再調整が必要になってきます。

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2011年01月17日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際2・器械のみによる呼吸(CMV:continuous mandatory ventilation持続強制換気)の際に確認すべき設定

酸素と二酸化炭素を決める要素を思い出して下さい。

酸素:
肺胞の数とFiO2で決まる

二酸化炭素:
分時換気量(ミニットボリューム Minute Volume:MV)
=1回換気量(タイダルボリューム Tidal Volume:TV)×呼吸回数で決まる

のでしたね。

人工呼吸の設定を決めるときには、これらの要素ごとに分けて考えましょう。


酸素を決める要素としては、

・吸入気酸素濃度(FIO2)
・PEEP圧


を決めます。


二酸化炭素を決める要素として、

・1回換気量(TV)
・呼吸回数


を決めます。


ここで、「PEEPってなんやねん」とか、「そんなパラメーター、設定にないよ」という声が聞こえてきますが、もう少しガマンしましょう(笑)。

ここでは、「PEEPは呼吸に関与する肺胞の数を増やすもの」と思って下さい。


大事なのでもう一度、原則の確認です。

酸素を決める要素として、
肺胞の数=PEEP
FiO2

を設定し、

二酸化炭素を決める要素として、
分時換気量
=1回換気量×呼吸回数

を設定します。

原則を頭にたたき込んだら、次のステップです。

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2011年01月16日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース・人工呼吸の実際1・器械のみによる呼吸

さてさて、ようやく?挿管しました。
人工呼吸の設定をしましょう。

最初に考えるべきは、換気モードです。
平たくいうと、

自発呼吸があるか、あるいは自発呼吸を生かしたいか
自発呼吸がないか、あるいは自発呼吸を消したいか

ということです。

人工呼吸を開始した時は、変に自発呼吸が残っていたりすると呼吸効率が悪くなり、病状が悪化することもあるため、たいがい鎮静、あるいは/ならびに筋弛緩をしっかりかけて自発呼吸をなくし、器械のみによる呼吸にすることがあります。

もちろん、そもそも呼吸停止時には自発呼吸はありません。

すなわち、自発呼吸がないか、あるいは自発呼吸を消したい。
その際には、器械のみによる呼吸モ―ドを行うことになります。

設定名称は器械(のメーカー)によって様々なので、皆さんご自身がおつとめの施設の器械の説明書をお読みいただきたいのですが、一般的にはCMV(持続強制換気:continuous mandatory ventilation)といわれるモードです。


このモードでは、


患者さんの(分時)換気量(MV)=器械で設定した1回換気量(TV)×呼吸回数


になるので、わかりやすいといえばわかりやすいですが、
その分、正確に設定をする必要があります。
あなたの設定が患者さんの呼吸状態を直接決めるのです。

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2011年01月15日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース11・マスクか、挿管か

最近、顔にフィットする優秀なマスクが開発され、マスクを用いた人工呼吸が行われるようになってきました。

挿管しなくても人工呼吸ができる、というのは革命的なことです。

なんといっても手技的なハードルが低くなる、患者さんの苦痛が少ない、人工呼吸器関連肺炎のリスク減少、といいことはいっぱいあります。

ですので、呼吸器内科では、マスクで人工呼吸を行うことが多いかと思います。


でも、マスクによる人工呼吸にも弱点があります。

なんといっても、気道に道を通していないわけですから、
舌根沈下があったり、気道閉塞があったりすると、全く呼吸できないのです。
つまり、呼吸停止、あるいは意識が全くない患者さんには使えません。

また、気道に管が入っていると、気管〜気管支内の痰を吸引するのは容易ですが、マスクでは口腔内の吸痰しかできません。

つまり、痰の多い患者さんには使わない方がいいでしょう。誤嚥のリスクが高い患者さんも同様です。


実際問題として、まだまだ、特に呼吸器科医がいないようなところでは、経験不足、対応機器がない、などの理由で挿管下人工呼吸が主流だったりします。

そこで、明日からは挿管下人工呼吸を前提に話を進めて参ります。
マスクによる人工呼吸については、応用編になりますので、またの機会に。

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2011年01月14日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース10・人工呼吸の適応基準

呼吸不全が高じて生命の危険が生じるとき、人工呼吸の適応になります。

具体的には、T型とU型で基準が異なります。


T型呼吸不全の場合

マスク、鼻カニューレを使用して最大量の酸素を投与しても、PaO2が60mmHgを下回るとき


U型呼吸不全の場合

PaCO2の値に関わらず、pHが7.25を下回るとき

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2011年01月13日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース9・U型呼吸不全

T型呼吸不全が数年以上慢性に経過すると、換気応答がだんだん鈍ってきます。

呼吸筋疲労などもあり、

分時換気量(ミニットボリューム Minute Volume:MV)=
 1回換気量(タイダルボリューム Tidal Volume:TV)×呼吸回数

が減ってきます。

もともと健康な肺胞の数が減っているのを呼吸数などで補っていたので、そこが弱ってくるとCO2蓄積が起こってきます。

また、慢性にT型呼吸不全が続くとき以外に、呼吸筋に問題があるときや中枢性換気応答低下状態では、

分時換気量=1回換気量×呼吸回数

が減少するため、PaCO2が上昇します。

PaCO2が正常範囲、すなわち45mmHgを上回るとき、これをU型呼吸不全といいます。

T型呼吸不全(低酸素血症)との違いは、PaCO2の値が、そのまま生命の危険に直結しない、ということです。

PaCO2が高値になると、呼吸性アシドーシスになり、血液pHは低下してきます。
このスピードがある程度ゆっくり、慢性に起これば、腎臓による代償が間に合って、pHが適正値に保たれるのです。

しかしながら、その代償が間に合わないスピード、あるいは程度のアシドーシスが起こると、pHが低下して臓器障害が起こり、生命の危険が生じます。

具体的には、pHが7.25を下回ると、具合が悪い。

この場合の治療は、換気量を上げるしかありません。
つまり、現在では、ほぼ人工呼吸しか治療法はありません。
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2011年01月12日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース8・T型呼吸不全

いよいよ、呼吸不全のお勉強です。
またまたアニメーションが使えないので、スライドを参照して下さい。


たとえば肺炎がおこると、その範囲の肺胞は浸出物で埋め尽くされるわけです。

肺炎肺モデル.jpg

そうすると、そこには空気が入らず、ガス交換が成立しないことになります。

T型呼吸不全.pdf

↑ このスライド2枚目のように、ここの血流はガス交換を経ることなく、汚いまま左房に帰ることになります。

例えば半数の肺胞がやられてしまった状態、というのは(スライド3枚目)、PaO2が1/2になるのがわかりますか?

これが、低酸素血症です。


低酸素血症が高じて、PaO2が60mmHgを下回るとき、低酸素によって臓器障害が起き、生命の危険が生じます。これをT型呼吸不全といいます。

低酸素血症の治療は、スライド4枚目のようにFiO2を上げる、つまり酸素投与になります。


すなわち、

肺胞がやられる病気(肺炎、心不全、肺気腫、肺線維症、結核など)では、ガス交換が出来ない肺胞が生じ、低酸素血症になります。

では二酸化炭素はどうなるか、といいますと、低酸素血症になると呼吸中枢が刺激され、換気量が増えるので、残っている元気な肺胞から飛んでいくため、高二酸化炭素血症にはなりません。

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2011年01月11日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース7・「普通の」だいたいの呼吸を知る・酸素と二酸化炭素を決める要素

いよいよ、人工呼吸器の設定を決める上で、ものすごく重要、かつシンプルな原則にさしかかって参りました。

体重60kgの健康な人は、FIO2=21%の空気を、1分間に

600ml/回×12〜15回=
7200〜9000(ml)換気することで、動脈血ガスをおおよそ次のように保っていましたね。


pH=7.350〜7.450
PaCO2(動脈血ガス二酸化炭素分圧)
=35〜45mmHg
PaO2(動脈血ガス酸素分圧)
=80〜100mmHg

PaO2とPaCO2は、一体何が規定しているのでしょう。

誤解を恐れずシンプルに書けば、

酸素:肺胞の数とFiO2で決まる

二酸化炭素:分時換気量(ミニットボリューム Minute Volume:MV)で決まる


のです。


おやおや。

規定している要素がまるで別ですね。

そうです。

酸素(PaO2)を決めている要素と、二酸化炭素(PaCO2)を決めている要素は、別なのです。
なので、人工呼吸器の設定を決めるときには、PaO2とPaCO2を別に考えてやる必要があるのです。

どうして、酸素は肺胞の数とFiO2で決まるのに、二酸化炭素は分時換気量(ミニットボリューム Minute Volume:MV)で決まるのか?

理由の一つは、酸素より二酸化炭素の方が、拡散のスピードが速いということ。
もう一つは、二酸化炭素は外気と呼気の濃度差が大きいということです。

本当はココで、講義でやっているアニメーションの一つでも持ってきたいところですが、そういうスキルがないので、スライドを参照して下さい。

PaO2とPaCO2.pdf


FiO2によって動脈血中のO2(PaO2)が決定されます。呼吸回数を増やして、換気量を上げてもFiO2はさほど影響を受けず、PaO2はあまり変わりません。

それに対して、呼吸回数を増やして、換気量を上げるとCO2はどんどん(CO2濃度の高い)血中から(CO2濃度の低い)空気中に拡散し、PaCO2は速やかに減少するのです。

この説明で、OKでしょうか?ちょっと自信がない…。

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2011年01月10日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース6・「普通の」だいたいの呼吸を知る・pHが低くなるアシドーシス(酸:acid)・高くなるアルカローシス

アシドーシス(酸:acid)というのは、pHが低くなっていく状態のことでした。

肺が原因で起こるアシドーシスのことを呼吸性アシドーシスといいますが、これはCO2の値が増加することで、pHが低下することを指します。

また、腎臓が原因で起こるアシドーシスのことを代謝性アシドーシスといいますが、これはHCO3-の値が減少することで、pHが低下することを指します。


アシドーシスになると、pHを正常に保つため、肺なり腎臓なりの問題のない方の臓器で、アルカリ側に持って行くような機構が働きます。これを代償といいます。

例えば、CO2が貯まった結果、呼吸性アシドーシスになりますと、腎臓はHCO3-を増加させることで、血液pHを正常に戻そうとするわけです。これを腎臓による代償とします。


アルカローシスはその反対。

肺が原因で起こるアルカローシスのことを呼吸性アルカローシスといいますが、これはCO2(酸性物質)の値が減少することで、pHが上昇することを指します。

また、腎臓が原因で起こるアルカローシスのことを代謝性アルカローシスといいますが、これはHCO3-(アルカリ性物質)の値が増加することで、pHが上昇することを指します。

少し細かい点は端折ってあります。まずは大原則をたたき込みましょう。

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2011年01月09日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース5・「普通の」だいたいの呼吸を知る・pH

動脈血ガスを取ったときに、まず見ておきたいのはpHですね。
O2は、SpO2である程度わかりますが、pHはこれでなくてはわからない。

さて、pHの正常範囲は、7.350〜7.450、つまり、7.400±0.050なんです。
ものすごーく狭い範囲に入っていますね。

化学の実験をやったことのある方ならおわかりでしょうが、試薬を1滴多く垂らしても、すぐにこの範囲を超えるぐらい、ずれてしまう。そんな微妙〜な、繊細なモノなのです。人間の(生物の)身体は。


pHが低いということは、血液が酸性であるということ。これをアシデミア(酸:acid)といい、アシデミアに向かっている状態をアシドーシスといいます。

逆に、pHが高いということは、血液がアルカリ性であるということで、アルカレミアといい、アルカレミアに向かっている状態を、アルカローシスといいます。

pHに大きく影響するのは、主に肺と腎臓です。
肺はCO2(酸性物質)の量を変え、腎臓はHCO3-(アルカリ性物質)の値を変えることでpHに影響します。

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2011年01月08日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース4・「普通の」だいたいの呼吸を知る・FiO2

吸入気酸素濃度(エフアイオーツー:FiO2)とは、吸気に含まれる酸素の濃度です。室内気、というか、そこらの空気では、この数字は21%になります。

体重60kgの健康な人は、FiO2=21%の空気を、1分間に

600ml/回×12〜15回=
7200〜9000(ml)換気することで、動脈血ガスをおおよそ次のように保っています。


pH=7.350〜7.450
PaCO2(動脈血ガス二酸化炭素分圧)
=35〜45mmHg
PaO2(動脈血ガス酸素分圧)
=80〜100mmHg
HCO3-(重炭酸イオン)
=22〜26mEq/L

これは正常値(正常範囲)ですので、数値を覚えましょう。

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2011年01月07日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース3・「普通の」だいたいの呼吸を知る・換気量

普通に呼吸をしていて、肺に空気がどのくらいの量、出入りしているか。
これが換気量です。

1回の呼吸で出入りする空気の量を1回換気量(タイダルボリューム Tidal Volume:TV)といいます。

英語のことわざで、time and tide wait for no manってありましたね〜。tideって、潮の満ち引きなのです。まあ何というか、詩的な用語ですね。

これは覚えなきゃしょうがないのですが、健康な人のおおよそのTVは体重1kgあたり10ml。つまり体重60kgなら600ml。体重(kg)に10を掛けた数字(ml)になります。

1回換気量(TV)=体重(kg)×10(単位:ml)

それで、1分間に何回呼吸するのでしたっけ。





そうです。
12〜15回ですね。

1分間に、肺に出入りする空気の量のことを分時換気量(ミニットボリューム Minute Volume:MV)というのですが、

分時換気量(MV)=1回換気量×呼吸回数

となります。

一般的に、「換気量」といいますと、MVのことをいいます。

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2011年01月06日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース2・「普通の」だいたいの呼吸を知る・呼吸回数

私たち人類が、だいたいどんな感じで呼吸をしているか、これを知りましょう。
だいたいでいいので。

お風呂に入っているときとか、寝る前布団に入ってから、胸とお腹に手を当てて、呼吸を意識してみましょう。

息を吸って吐いて。まあこの繰り返しですね。
胸もお腹も動いている人が多いと思います。

息を吸うのに1秒くらい、息を吐くのはそれより時間がかかりまして、2-3秒かな。
吸うのと吐くのの間には少しお休みがある。
全部で、1サイクル4-5秒というところでしょう。

とすると、1分間に12〜15回、呼吸することになりますね。

つまり、普通、呼吸回数は12〜15回。
吸気はだいたい1秒
呼気はだいたい2秒

と、覚えてみましょう。

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2011年01月05日

人工呼吸器の設定簡単マスターコース1

若い先生からリクエストが多いのが、
「人工呼吸器の設定がさっぱりわからない。できるだけ時間をかけずに知識を得たい。」
というもの。

気持ちはわかりますが(笑)、ある程度は時間が必要です。

うちのレクチャーで言うと、所要時間60分ほどで、以前は60分×2コマでやっていたものを、「時間を短く」のリクエストにお答えして60分1コマの時短版にしています。

せめてそのぐらいは、時間をかけて下され。ってことです。

人工呼吸器の設定を学ぶ、といっても、器械のことがメインではありません。
呼吸のことを学んでいただきます。

人工呼吸器とは、人工的に「理想的な呼吸」をしていただくために用いるもの。
理想的な呼吸のことがわかれば、人工呼吸器のこともわかるのです。

ただ最初にお断りしておきますが、これからの記述は、あくまでも
「若い先生、コメディカルの皆さんの理解しやすさを最優先に考えて」進めますので、厳密な正確さをお求めの向きには適しておりません。

ですので、お偉い先生からの「正確じゃないね」というご指摘は、スルーさせていただきます
若い先生、コメディカルの皆さんも、そのつもりでお願いします。

大事なことは、若い先生だったら、救急などの現場で、ハイ挿管した、呼吸器の設定はどうする、という場面で、ほいほいととりあえずの設定をできるようになること。

あるいは、当直していて、呼吸器装着している人の具合がどうも、となったときに、ああこれはね、と咄嗟の対応ができるようになること。

コメディカルの方は、ああこの先生は、こういうつもりでこの設定をしたのね、ということがパッと理解できる。

この辺を目標においていますので、もっときっちりしたことを知りたい方は、成書をお読み下さい。

イントロ(いいわけ)が長くなったので、本編は明日からスタートします。

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